大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)340号 決定 1962年2月07日
抗告人 松本勝
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告人は、「原審判を取り消す。」との決定を求め、抗告の理由は、別紙のとおりである。
原裁判所は、証拠に基づいて、抗告人と安平雅利(申立人)の親権者高橋(旧姓安平)きみ子とが調停離婚をするようになつた事情、その後抗告人が松本(旧姓村上)泰子と婚姻し、きみ子が高橋恒夫と婚姻しており、安平雅利は、きみ子の側つまりきみ子の父母に引き取られて扶養されていること、きみ子や抗告人の資力その他の事情を考慮したうえ、抗告人の負担すべき扶養料の額を月額五〇〇円と定めたものである。およそ親と子との間の扶養の義務は、相手の生存を自己の生存そのものとして維持する義務(生活保持の義務)であり、自己の生存に余裕のある場合にだけ相手の困窮を援助する義務(生活扶助の義務)とは異なるものというべきであつて、前示のように、諸般の事情を考慮したうえ、雅利が生活し教育を受けるため、きみ子側だけでなく抗告人もその子雅利の生活費等月額約三、五〇〇円の一部月額五〇〇円を負担すべきものとした原裁判所の判断は相当であるというべきである。たとえ、きみ子が、雅利に相当な生活を維持させる目的のほか、抗告人主張のような動機から雅利の法定代理人として本件扶養料支払の申立をしたものであるとしても、抗告人に前示程度の扶養義務がないものということはできない。たとえ抗告人の妻泰子が、抗告人に前示程度の扶養料支払の義務のあることを了解できないとしても、抗告人の前示程度の扶養料支払の義務を免れさせる理由とはならない。抗告人が扶養料月額五〇〇円を支払うことによつて、その限度で抗告人の生計が苦しくなるであろうことは推察できないものではないけれども、他方その子雅利に対する扶養義務が前示のように生活保持の義務である以上、やむを得ないものというべきである。抗告人の主張はすべて採用できない。
他に記録を調べてみても、原決定を取り消すべき違法の点は認められず、本件抗告は理由がないから、家事審判法七条非訟法二五条民訴法四一四条三八四条九五条八九条を適用し主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 山崎寅之助 裁判官 山内敏彦 裁判官 日野達蔵)
(別紙)省略